【新潟市中央区西大畑町】古さを生かしたヴィンテージスタイルのリノベーション-その2-

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鈴木亮平

新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。

※本記事の情報は2018年1月4日現在のものです。

1973年竣工。築45年のヴィンテージマンション

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2016年の夏に紹介した「【新潟市中央区西大畑】古さを生かしたヴィンテージスタイルのリノベーション」の物件を手掛けた株式会社モリタ装芸。

2017年12月、同社が同じ西大畑町にて、新たなマンションのリノベーション工事を終えた。2016年に紹介した“ときわマンション”から直線距離で250m程北東にある“ハイツ日本海”の5階の一室だ。

ハイツ日本海は、どっぺり坂のすぐそばにある7階建てのマンションで、傾斜地に立っているため、入口は3階にあるというちょっと不思議な建物。

竣工は1973年なので、今年2018年で築年数は45年になるヴィンテージマンションだ。

1973年。それは現在50代半ば以上でないと、その時代のことを肌感覚を持って説明できる人はおそらくいない。

1970年代と言えば、ベトナム戦争、連続企業爆破事件と称される日本国内でのテロの頻発、フォークソングの流行、ヒッピームーブメントなどが起こっていた時代で、私を含むその時代を経験していない人間にとっては遠い昔の歴史上の出来事のように感じられる。

そんな1970年代から、新潟市内でも歴史と格式のある西大畑町に存在していたというのだから、この建物にはたくさんのエピソードがあふれていそうだ。

 

“情景”を考えながら作り込んだ空間

モリタ装芸のリノベーション部門「classicaL(クラシカル)」は、古い建物や空間を新築同様に刷新するのではなく、元々の建物が持つ個性やこれまでの時間の中で醸成されてきた味わいに敬意を払い、それを生かすことに重きを置いている。

ことclassicaLの設計担当者である小倉直之さんは、人一倍その思いを強く持ち空間づくりにあたっている人物だ。

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株式会社モリタ装芸classicaL部門の建築士・小倉直之さん。

「リノベーションの設計にあたる際、例えばその空間に身を置いたときに見える景色が一つ重要な要素になります。そして、その空間での過ごし方をイメージし、そこから設計を始めるようにしています」と小倉さん。

そう説明すると「難しそう…」と言われることもあるそうだが、逆にそのプロセスを踏まずに設計をすることの方が難しいのだそう。

最先端のデザインが登場すると、それは間もなく一気に模倣をされ「〇〇風」と呼ばれるデザインのコピーであふれてしまう。それは建築やデザインに携わる人に起こっているだけでなく、ICTの進化の中でむしろ生活者が当たり前のように行うようになっている。

一方、小倉さんの設計プロセスに注目をすると、「窓から見える景色」や「そこでの過ごし方」が出発点となっている。もちろん使用する建材やデザインの表現方法にはトレンドも取り入れられているが、そのデザインは目的ではなく手段となっている点がポイントだ。

さらに、「空間をつくる上で“情景”を大事にしている」と小倉さん。

情景を辞書で引くと「人間の心の働きを通して味わわれる景色や場面」と説明されている。情景。それは、ただの風景ではなく人の心の動きが介在した風景ということになる。

「こんな話をすると、ロマンチストと思われて共感されないかもしれませんが…(笑)」(小倉さん)と苦笑した。

 

西大畑町の風景を望む落ち着いた空間

では、気になるリノベーションされた部屋を見てみよう。

床面積は55.40㎡(16.75坪)。間取りは1LDKで、個室は間仕切り壁を付ければ2室に分けて使うこともできる。

このリノベーションされた部屋は現在モリタ装芸のモデルルームとして使われているが、同時に販売中でもある。販売価格は1,422万円。もちろん一室しかないので、早い者勝ちだ。

こちらがLDK全景。

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既存の天井は部分的に取り払い、コンクリートスラブをむき出しにしている。LDKは細長く、決して広いとは言えない空間だが、中央のダイニング部分の天井高を3mにすることで開放感をつくり出している。

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手前にはモルタルで仕上げたキッチンカウンター。そして、キッチン内の壁はサブウェイタイル仕上げに。

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部分的にタイルをあしらうのが最近の流行りだが、ここでは徹底して広い面積にタイルを使っており、サブウェイタイル(=地下鉄の壁に使われてきたタイル)が持つレトロな雰囲気が強く感じられる。

モルタルもタイルも水に強い素材なので、合理性も兼ね備えている。

床に使われているのは「クク」という東南アジア産の珍しい堅木。重厚な質感はコンクリートとの相性も良く、それぞれを引き立て合っている。

ちなみにこの床材は2017年に沼垂テラスにオープンした無垢材ショップ「and wood(アンドウッド)」から購入したものだそう。「クク」の国内での施工実績は少なく、数年後には流通自体がされなくなる可能性もあるという希少性の高い木材なのだそう。

奥の窓辺は小さなリビングスペース。

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造作のソファーは幅が広いので夜お酒を飲みながら気持ちよく寝落ちできるベッドにもなるし、ゲスト用のベッドとしても活用できる。

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奥行のあるソファーはゆったりとくつろげる。後ろには隣室と繋がる窓が設けられており、開放すれば55㎡とは思えないほどに空間が広く感じられる。

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窓側に造作された棚には、小物や本、雑貨などを並べることができるし、サイドテーブルとして飲み物を置くこともできる。さらにはベンチとしても使える。

例えば家でゲストが集まる時に、少し籠もり感のあるこのリビングスペースでテーブルを囲みながら親密な時間を楽しむことができそうだ。

窓から見える景色は西大畑町の住宅街。

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手前には坂を登り切った場所にあるカーブ、少し遠くには松林が見える。西大畑町らしい落ち着いた風景が広がっている。

「このマンションの5階で他の空き部屋も見せて頂いたのですが、坂道を走る車の往来が眺められるこの部屋が一番素敵に思えたんです」と小倉さん。

高層マンションとは異なる地面との近さ。即ち街との近さが西大畑町で暮らす実感を与えてくれる。

 

奥行感をデザインし、実面積以上の広がりを実現

リビングの隣には個室が続く。先ほどのソファーの後ろの窓の奥には小さなロフト収納付きの個室がある。5畳程度の空間が2つ連続しているが、間仕切りはしていないのでワンルームとして使ってもいいし、ロールスクリーンで仕切ったり、間仕切り壁をつくってもいい。

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奥の部屋からはウォークスルークローゼット越しにLDKのダイニングテーブルが見える。天板に白いメラミン化粧板を使ったテーブルはモリタ装芸のオリジナル家具で、どこか懐かしい雰囲気を感じさせる。

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逆にダイニング側から眺める。

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どこからでも空間の奥へ奥へと目線が伸び、回遊できる動線になっているところも小倉さんがこだわったポイントだ。

限られた床面積でいかに窮屈さを感じさせず、多様な景色をつくり出せるか?

そんなことにも重きが置かれている。

洗面室へと足を運ぶと、こちらにはキッチンカウンターと同様にモルタルで仕上げたオリジナルの洗面台が。

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シンプルながら、味わい深い質感と素材感が日常生活をより豊かなものに変えてくれそうだ。

奥に目をやるとステンレスのパイプがL字型に取り付けられており、ハンガー掛けになっている。バスタオルや洗濯物を一時的に掛けるのに重宝しそうだ。

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新潟らしい、心地よいアンニュイさ

築後45年という長い年月を経て老朽化した部屋は、最新の設備を備えた空間と比較するとお世辞にも快適とは言えない。それに、人口減少社会に突入した今、古いマンションの競争力はそのままでは落ち続けて行くしかない。

その一方で、相続税対策といった理由から性能の低い賃貸アパートが実際の需要以上につくられている。

しかし、築年数が経っているとは言え、RC造の頑強な構造を持っており、遮音性が高く、断熱性能は内窓を入れることで大幅に向上する。水回りをはじめとした設備機器を刷新すれば、そこには新築同様の空間ができあがる。

ただ、その考え方は近年リノベーションが注目を集めている一般的な理由であり、決して新しいものではない。

このハイツ日本海のリノベーションのポイントは、決してピカピカの新築同様の部屋を目指していない点にある。この部屋に身を置いて確かに感じるのは、「どこか懐かしい」という気持ちだ。

落ち着いた色味で統一されていたり、造作の家具には集成材ではなく無垢材が使われていたり、壁の仕上げはビニルクロスではなく塗装仕上げだったり…。

便利でコストパフォーマンスが高い新建材ではなく、手間が掛かりクセもある建材を使っている。だからこそ、そこには手仕事の味わいが生まれている。住む人も自分で定期的に補修をすれば、家との関係性はより濃いものになりそうだ。

最後に小倉さんはこう話してくれた。

「この部屋は曇りや雨の日が似合うんです」。

冬場の天気の悪さや暗さは新潟県で暮らすことのデメリットに捉えられがちだが、曇りや雨の日の穏やかな光は空間に落ち着きと安らぎを与えるものでもある。

心地よいアンニュイさとでも言ったらいいだろうか。

この部屋は単身者か2~3人までの家族向けの小さな空間だ。必要以上にものを持たないミニマルなライフスタイルを送れる人は、特にこの空間の良さを最大限に生かせそうだ。

はたまた、セカンドハウスとして購入し、趣味や交流の場としたり、仕事部屋として使うという方法もあるかもしれない。

C2C(個人間)取引が加速する中、使わない日は民泊やレンタルスペースとして貸し出せば、この場所を多くの人に使ってもらうこともできる。

徒歩圏内には旧齋藤家別邸や北方文化博物館新潟分館、新潟市美術館などの文化的な名所も多い。ホテルがない地域なだけに、この部屋での滞在は旅行者にとって特別な体験になることは間違いない。

ヴィンテージマンションのさまざまな新しい可能性を感じさせる部屋ができあがった。

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リノベーション前と解体後の写真。

–物件DATA–
価格:1,422万円
延床面積:55.40m²
所在地:新潟市中央区西大畑町
竣工年月:1973年1月
構造:鉄筋コンクリート造(RC造)

問い合わせ先:株式会社 モリタ装芸
住所:新潟市中央区鳥屋野4-18-10
電話:025-284-3558

設計・施工:株式会社 モリタ装芸

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新潟市在住のフリーランスの編集者・ライター(屋号:Daily Lives)。1983年生まれ。企画・編集・取材・コピーライティング・撮影とコンテンツ制作に必要なスキルを幅広くカバー。紙・WEB問わずコンテンツ制作を行う。